どうする?介護施設でのコロナウイルス対応
はじめに
2020年1月に、WHOより『新型コロナウイルス感染症』の発生が報告されてから2年が経ちました。
現在もウイルスは変異し私たちの命をおびやかし続けています。国内でも多くの感染者が発生しています。
筆者が所属する介護事業所でも『新型コロナウイルス感染症』の陽性者が発生しました。
今回の記事では、陽性者の対応をした際に気づいたことや、参考にしていただきたいことをまとめています。参考にしてみてください。
『新型コロナウイルス感染症』への対応
施設で発生すると何が起こるの?
『新型コロナウイルス感染症』が発生し、ご利用者の生活・職員の働き方に大きな変化がありました。この章では実際にどういった変化があったのかご紹介します。
※筆者の所属している施設は、「通い(デイサービスの役割)」「訪問(ホームヘルパーの役割)」「宿泊(ショートステイの役割)」を1つの事業所で対応している、『小規模多機能型居宅介護事業所』です。
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1.働くことのできる職員の減少
最初にスタッフの1人が陽性者として診断されました。そして、スタッフの総数の約2/3が濃厚接触者として認定され、自宅で待機するように保健所から指導が入りました。
その結果、勤務できるスタッフの数は1/3程度になってしまいました。数にすると約5名。
普段であれば1日あたり7~8名程度のスタッフが勤務していたため、スタッフの体制は非常にひっ迫した状態となりました。
2.介護サービス提供の停止と縮小
スタッフの2/3が自宅待機となり、提供できる介護サービスは大きく縮小せざるを得ませんでした。
スタッフだけでなくご利用者の多くも濃厚接触者に認定されました。可能な限り接触を避けるため、命を存続するために必要なサービスのみ行うことにしました。
たとえば、糖尿病でお薬を飲むことが必要であるご利用者の服薬の介助や、安否確認の支援です。同じ糖尿病を患っていても、同居する家族、もしくは支援できるものがある場合には、サービスの提供は停止しました。
また、認知症や身体に障がいを持っていて、食事の用意をご利用者本人が行うことが極めて難しい場合などに限り、自宅へ介護職員が訪問しその支援を行いました。
3.ご利用者とスタッフのストレス
通いのサービス提供を停止したことで、ご利用者の生活に大きな変化が起こりました。
外出をして集団の中で過ごすことができなくなった、人と話をする楽しみがなくなった、お風呂に入ることができなくなった、食事があたたかみのないものになった、時間の感覚があいまいになった、家にいるばかりでストレスがたまる、といったことが起こったのです。
高齢者が他者とコミュニケーションを取ることは、その人らしさや心身の状態を保つために非常に重要です。ご利用者の声を聞いて、通いの場がご利用者にとってどれほど大切なものなのか改めて強く実感しました。
また、スタッフも強いストレスにさらされていました。
少ない人数でご利用者の心身状態を確認しながら『新型コロナウイルス感染症』に感染していないかもチェックしないといけません。普段と異なる状況にストレスを感じているご利用者を目にしながらも、神経は張り詰め、精神的なつらさを感じずにはいられませんでした。
スタッフ自身も感染するのではないか、すでにしているのではないかという不安もありました。
当然ですが、スタッフにも家族がいます。小さな子供を抱える人、疾患をもつ人、高齢の親と同居している人、家族に感染させてしまいたくないという思いからその不安は相当なものでした。
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どんなお仕事? 小規模多機能施設スタッフの1日実際の対応
『新型コロナウイルス感染症』に関する情報は数多くあります。
私たちの事業所が選んだ対応は「エビデンス(根拠)のある情報を選び、行動する」ということでした。
事業所の管理者は、保健所へ電話や書類の提出を行いながら対応について相談をし、必要な指示を受けました。ケアマネジャーは、ご利用者やその家族の心身状態を確認しながら提供できる介護サービスの調整を行い、介護スタッフは必要最低限の訪問サービスを提供するために一日中走り続け、ご利用者の生活を支えようと悪戦苦闘しました。支援は、感染症を拡げないために厚生労働省が提示しているマニュアルを参考にしながら行いました。マニュアルには、介護職員が参考にすべき感染症の予防対策が記されており、手指の衛生を保つ方法、マスクや手袋・ガウンの適切な使い方、職員の一日の流れにそった注意点などがわかりやすく記載されています。
それぞれの立場に応じて役割を堅実にこなし、感染症が落ち着くまで対応を続けました。
対応を続けるなかで、徐々に濃厚接触者の自宅待機期間を終えたスタッフが職場へ復帰しはじめ、少しずつ普段の日常に戻っていきました。スタッフが戻ってきたことで、それまでほぼ休みなく働いていたスタッフはやっと休日をとることができました。
この段階にくるまでに3週間はかかったと思います。
感染症対策のポイント
今回の『新型コロナウイルス感染症』の対応をする中で注意した3つの感染症対策のポイントを紹介します。
これから対策を考えようとしている方、対策に不安のある方は参考にしてみてください。
1.信頼できる情報を選ぶ
1つ目は、信頼できる情報を選ぶことです。
筆者の所属している事業所では、厚生労働省の資料や保健所の資料など公的な機関の情報を一貫して選びました。
介護サービスを責任もって提供するには、エビデンスのはっきりとした情報が必要です。不確定で出どころのはっきりしない情報は、頭の隅に置いておく程度にとどめておくほうがよいかもしれません。
また、常に最新の情報をチェックすることも重要です。
感染症の対策や法令は、常に新しいものへと変化しています。『新型コロナウイルス感染症』にしても、以前はデルタ株中心だったものが、現在ではほとんどがオミクロン株に置き換わっていると言われています。今後も状況は変わっていくことでしょう。
状況の変化に伴い、持つべき知識も変化します。変わらない部分もあれば変わっていく部分もあるので、常に最新の情報を入手できるようにチェックしておくのがよいでしょう。
2.ご利用者ごとに対策を落とし込む
2つ目は、対策を実践できるレベルにまで落とし込むことです。
エビデンスのしっかりした情報であっても、ご利用者に当てはめること、実践するスタッフが理解し行うことができなければ意味がありません。
また、どんなによくできた対策であっても、実践してみると微調整が必要であることがほとんどです。
たとえば、手洗い一つにしても、ご利用者のAさんは脳梗塞の後遺症によって右半身に麻痺があるので左手は職員が介助して洗いましょう、右手は拘縮があるので手洗いが難しいから消毒のみで済ませましょう、といったご利用者ごとの対策を考える必要があります。
3.フレキシブルな業務運営
3つ目は、柔軟な業務運営をすることです。
陽性者の発生に伴い人員不足になることは紹介しましたが、そういった状況でもサービスを提供していくことが求められます。
そこで、筆者の事業所ではケアプランの見直しを行い、ご利用者とスタッフの負担ができるだけ少なくなるようにサービスを必要最低限にまで縮小しました。これについては厚生労働省より、『新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて』という題目で通知されているので、参考にしてみてください。
ちなみに必要最低限とは、『介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン』に「介護事業者は、入所者・利用者の健康・身体・生命を守るための必要不可欠な責任を担っています」と記載されていることを念頭に検討をする必要があります。
実際に筆者が対応したケースでは、ケアプランに「通いを利用し食事を提供する」というものがあるのですが、ご利用者のご家族に相談をして、食事の提供をすべてご自宅で対応していただけるように調整しました。心配な一面もありましたが、人との不要な接触をさけるために訪問も行いませんでした。
このようにケアプランの見直しをしてサービスの縮小化を行い、この難局を乗り越えることができました。
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今回は筆者の経験した『新型コロナウイルス感染症』の対応をもとに、対策方法や気づいたことをまとめました。
新型コロナウイルスは変異を続けており、その終息はまだ見えていません。今後も、介護事業者は『新型コロナウイルス感染症』と向き合っていかねばならないでしょう。
ご利用者、そして私たち自身の命を守るために、適切な対応を取りリスクを軽減できるようにしていきましょう。
【参考資料】
- 介護職員のための 感染対策マニュアル(通所系)|厚生労働省
- 介護職員のための 感染対策マニュアル(施設系)|厚生労働省
- 介護職員のための 感染対策マニュアル(訪問系)|厚生労働省
- 介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
- 介護現場における (施設系 通所系 訪問系サービスなど) 感染対策の手引き 第2版|厚生労働省
- 「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて」のまとめ|厚生労働省
有田 和弘
介護の現場で介護スタッフ・介護支援専門員として10年以上の経験を積む。
現在は小規模多機能型居宅介護施設で介護支援専門員として高齢者の生活支援に携わりながら、介護に関する記事を書くライターとしても活動中。