介護職員間のコミュニケーションがうまくいっていないと何が起こる?
より良いコミュニケーションのためにできる3つのこと
はじめに
介護施設に勤める職員は、日頃から他の職員とコミュニケーションを取りながら仕事をしています。
なぜなら、質の高いケアの提供や事故防止のためには、適切なコミュニケーション・情報交換が必要不可欠だからです。
この記事では、介護職員が抱えがちなコミュニケーションに関する悩みをケースごとに紹介するとともに、より良いコミュニケーションのためにはどのようなことをすれば良いのかを解説します。
職員間のコミュニケーションに悩まれている方はぜひ参考にしてみてください。
コミュニケーションはチームの力を高める基本!
介護施設の種別や大きさによって事情は異なりますが、現場で働く介護職員は多くのスタッフとコミュニケーションを取りながらチームで仕事をしています。
コミュニケーションはチームの力を高める基本であり、多くのスタッフが共通する意識を持ってコミュニケーションを取っていれば、ケアの質は向上しますし、事故を未然に防ぐことができます。
適切な人間関係が根底にありコミュニケーションが行われ、チームワークが機能していればいいのですが、全ての施設でうまくいっているとは限りません。
なかには、介護職員間のコミュニケーションがあまり見られず、結果として、良い介護が提供されているとは言い難い施設もあります。具体的な例を見てみましょう。
ご利用者とのコミュニケーション方法についての記事はこちら!
介護現場では利用者とのコミュニケーションが大切!実践で使える技法を紹介
ケース①:介護観の違いからコミュニケーションがうまくいっていないケース
介護職員のAさん(30代女性)は早番の勤務で、出勤してすぐに利用者に声をかけ、起床の促しを行っていました。
Aさんのモットーは「丁寧な介護、穏やかな介護が利用者を笑顔にする」で、これに従い日頃の介護業務を行っていました。
しかし、同じ日に早番勤務しているBさん(40代女性)は、Aさんの仕事の遅さにイライラしています。
「Aさんの仕事は丁寧ではなく、要領が悪いだけ。仕事が遅すぎて時間がいくらあっても足りない」というのがBさんの主張です。
BさんはAさんの仕事ぶりが気に食わず、同じ日に早番に入ったことに不満があるようです。
「このままでは日勤の介護職員に迷惑がかかる」そう考えたBさんは、Aさんとはコミュニケーションを取らず、早番の仕事を終わらせるために黙々と急いで仕事をするのでした。
本来なら、介護職員同士で声をかけ、役割分担して仕事を進めるはずが、結果としてコミュニケーションを取ることがないまま仕事をしてしまっているケースです。
このケースのように、介護職員の持つ「介護観」に違いがある場合、適切なコミュニケーションを使ってこの溝を埋めない限り、良い介護の提供に繋がることはありません。
ケース②:報連相や引継ぎ・申し送りが不十分なケース
医療や介護の現場では、多くの職員がシフト制で勤務しています。
シフト制勤務で最も重要なのは、職員が交代するタイミングで引き継ぎや申し送りを十分に行い、シームレスな(切れ目のない)ケアが提供できるかどうかです。
なぜなら、職員がシフト交代しても、患者・利用者の生活は続いており、前後の時間で何があったか、利用者の様子はどうだったかを把握したうえで、介護が提供されることが重要だからです。
ところが、
- バタバタしていて忙しいので引き継ぎをしない
- シフトが変わるタイミングで申し送りをしない
- 人間関係が悪く、重要な情報の共有がなされない
など、チームワークが発揮できていない施設は少なくありません。
結果、次のような事故が起きる恐れがあります。
- 薬の服用と、それに伴う副作用が共有されていないケース
- 利用者Cさんは夜の寝付きが悪く、職員に申し出たうえで睡眠薬を服用しました。
朝、薬の副作用で脱水や低血圧でふらつきが出ましたが、前任者から引き継ぎを受けていない介護職員が一部介助をした際に、Cさんと共に転倒してしまいました。
- 利用者の状態・特徴が共有されていないケース
- ショートステイに入所する利用者Dさん。
起立性低血圧症※1であるにもかかわらず、職員の間で十分な情報共有がなされていなかったために、介護職員がベッドをギャッジアップ※2してしまい、Dさんがベッド上で失神してしまいました。
※1 横になっていたり、座ったりした姿勢から急に立ち上がったときの急激な血圧の低下により、立ち眩みや失神などが見られる症状。
※2 ベッドの背もたれを起こしていくこと。
ここで挙げた例のように、日頃の報連相や引き継ぎ・申し送りが不十分だと、利用者の体調不良に気づくのが遅れてしまうことも。場合によっては利用者を危険な状態にしてしまうなどの事故を誘発してしまいます。
そのうえ、重大事故が起こったときに「前任者から申し送りがなかった」「後任者が来るのが遅く、申し送る体制ではなかった」等、個人のミスを攻撃してしまいかねません。
このような関係・環境が続くと、職員は余計に報連相を怠るばかりか、万が一の時に(責められたくない一心で)ミスや事故を隠そうとします。そうするともっと大きなトラブルへと発展してしまう恐れがあります。
ケース②をご覧になると分かるとおり、日頃の報連相だけではなく、シフト制で職員が交代する時でも共通の目的を持ったコミュニケーションが大切になります。
繰り返しになりますが、報連相や引き継ぎが不十分なままでは、決して良い介護は提供できません。
より良いコミュニケーションのためにできる3つのこと
それでは、先ほどのケースのようなことが起こらないようにするには、どのようなことをすれば良いのでしょうか。
1つずつ紹介していきます。
① ケアの方針を決める・共有する
最初にしなければならないことは、施設の運営理念、ケアの理念に基づいて利用者一人ひとりのケアの方針を定めることです。既に定まっているのであれば、現場が共有できるような工夫が必要です。
悪い例として、「介護を提供すること」が目的化してしまっていて、何のために、どのように、という最も大切な部分を現場の誰もが理解していないということがよくあります。
また、ケアの方針が定まっていない、目標が不明確なままだと、介護職員も他の専門職も、どの方向を目指して仕事をしたら良いか分からなくなってしまいます。
だからこそ、ケアの方針を定め、共有することが大切です。
なお、支援方針の決定プロセスでは、ケアに携わる専門職(特に役職者やリーダー)が参加して話し合い、時間をかけて決定するようにしましょう。
共通の目的、目標を定めることによって、お互いに声を掛け合える関係・環境の構築につながります。
もちろん、介護職員間でも意見が対立することは必ずあります。こんなときこそ、職員が協働して定めたケアの方針に立ち返ることが大切です。同じ方針のなかで仕事をしているのならば、目指す方向は一緒で、必ずどこかで合点することができるはずです。
② 外部研修を受講する
施設内でコミュニケーション活性化の議論を行うと同時に、外部研修機関の利用も検討すると良いでしょう。
地域の社会福祉協議会や介護労働安定センターなど、様々な機関が介護職員を対象とした勉強会・セミナーを開催しています。研修によっては無料で受講できるものもあるので、現場の一線で仕事をする介護職員やスタッフを受講させると良いでしょう。
研修計画を立てるなかで、実施機関との打ち合わせを行い、施設側の抱える課題を説明するとともに、「受講後、介護職員にどのようになってほしいか」という明確なゴールを伝えることも大切です。
ただし、研修だけでは目に見える効果は期待できません。複数回にわたる研修の実施と、現場でそれを活用するように環境整備を行うことが大切です。
③ 職位・職種間を超えたコミュニケーションを心がける
複数の介護職員、様々な専門職が関わるケア現場では、常日頃のコミュニケーションを活性化させることも大切です。
これは職位の違いは関係なく、ケアに関わる職員であればぜひ心がけてほしいことです。
大切なことは、「なぜコミュニケーションを取るのか」「どのような目標を達成するために、コミュニケーションを取るのか」について、職員の認識を一つにすることです。
このような環境整備のためにはどうしても時間・手間がかかりますが、職員の思いを共有したり、意見交換したりする時間を設け、システム化することも有効でしょう。
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おわりに
コミュニケーションに正解はありません。
しかし、他愛もない会話から始め、介護職員間だけでなく、他の専門職とも積極的にコミュニケーションを取ることが良いコミュニケーションへの第一歩となります。
それぞれのスタッフ・専門職が施設の運営方針を理解し、どのような考えを持って、どのような支援を行い、どのような目標を持っているのか、共通認識を持てれば、より良いケアへとつながることでしょう。
コミュニケーションが不足していたり、共通認識を持てていなかったりすると、重大な事故につながってしまうこともあります。
今回紹介したことを参考に、より良いコミュニケーションを心がけてみてください。
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参考文献・資料・サイト
- 編集=介護福祉士養成講座編集委員会「新・介護福祉士養成講座 5 コミュニケーション技術」第3版(2016)中央法規出版
- 諏訪茂樹「対人関係とコミュニケーション」第2版(2010)中央法規出版
- 「講習会 イベント情報」公益財団法人 介護労働安定センター
笑和
現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。
福祉人材の教育は約20年のキャリアを持ち、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障全般にも精通している。
大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家資格応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。