熱中症、介護施設でなぜ起こる?
はじめに
日本の平均気温は年々上昇しています。気象庁の発表によると、2020年は1989年に統計を開始して以降最も高く、今後も上昇し続けると考えられています。
気温が高くなることで心配になるのが、「熱中症」です。
2020年の6月から9月の間に熱中症で救急搬送された人の数は、日本全国で64,869人でした。内訳を見てみると、高齢者(65歳以上)が最も多く、37,528人となっています。割合で言うと、約6割です。高齢者に関わる仕事をしている方は、熱中症について理解し、対応できる能力を身につけておくことが望ましいと言えるのではないでしょうか。
今回の記事では、熱中症が起こる要因や、起こった時の対応の仕方などを入所系の介護施設にスポットをあてて紹介します。
熱中症とは
熱中症にかかると、体温の上昇や体の中にある水分や塩分のバランスが崩れ、めまいやけいれん、頭痛などの症状があらわれます。
症状によって3つの段階があり、その場で対応が可能な軽症のⅠ度、病院への搬送が必要な中等症のⅡ度、入院をして治療を必要とする重症のⅢ度に分けられています。
熱中症が起こる要因
熱中症が起こる要因は、「環境」「からだ」「行動」の3つに分けることができます。
要因の理解は、熱中症を予防するうえで重要です。3つの要因と高齢者の特性を結びつけ、具体的に高齢者が熱中症にかかりやすい理由をイメージできるようにしておくとよいでしょう。
1.「環境」の要因
- 気温が高い
- 湿度が高い
- 風が弱い
- 日差しが強い
- 閉め切った屋内
- エアコンの無い部屋
- 急に暑くなった日
- 熱波の襲来
環境に関する要因について、入所系の介護施設にあてはめて考えてみます。
入所系の介護施設では、エアコンを設置していることがほとんどです。温度はスタッフによって管理されていますが、そういった環境においても注意が必要な点がいくつかあります。
たとえば、湿度の管理です。温度管理はしていても、湿度管理はそれほど気にかけていないケースを目にすることがあります。湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり熱中症への危険が高まるため、温度だけでなく湿度にも気を配る必要があるでしょう。
また、直射日光にも注意が必要です。日当たりのよい部屋は夏季には強い日差しにさらされることになります。ご利用者のベッドの位置に、日差しが直接当たるなんていうことはないでしょうか。日光が直接部屋に入ってくると、室温は高くなります。遮光カーテンなどで日差しをさえぎるなどの工夫をしましょう。
2.「からだ」の要因
- 高齢者
- 糖尿病や精神疾患といった持病
- 低栄養状態
- 下痢やインフルエンザでの脱水状態
- 寝不足
- 体調不良
そもそも、高齢者は体力そのものが低下していることや、何らかの疾患を抱えていることがほとんどです。つまり、もともと熱中症にかかりやすい状態にあるということです。
たとえば、便秘を解消するために下剤を服用している方は、脱水の状態に陥りやすいので注意が必要です。
また、認知症や精神疾患があり十分な水分や栄養を摂取できず、低栄養状態にある場合もあります。さらに、睡眠の質の低下による睡眠不足も、熱中症につながる要因の一つです。
特別養護老人ホームであればほとんどのご利用者が体力の低下や疾患を抱えていること、グループホームであればご利用者の全員が認知症にかかっていることを理解しておきましょう。
ご利用者ごとに異なるからだの状態を把握し、臨機応変な対応を心がけることが大切です。
3.「行動」の要因
- 激しい筋肉運動
- 慣れない運動
- 長時間の屋外作業
- 水分補給できない状況
高齢者は筋肉量自体が低下しており、少しの運動でも若い人にとっての激しい筋肉運動と言えるレベルになる場合があります。
一概には言えませんが、入所系の施設で暮らしている高齢者は、施設内の限られた空間で生活していることから運動不足になりがちです。そのため、暑い季節の運動には特に配慮が必要だと言えるでしょう。
また、高齢者のなかには、温度や自身の体調の変化に対して鈍感な方も少なくないので、気がついた時には熱中症になっていたなんていうこともあります。特別養護老人ホームやグループホームでは、認知症などの疾患により自身の体調の不調に気づけない方や、体調が悪いことに気づいていても訴える能力が低下している方が多くいるため、特に注意が必要です。
熱中症が起こった時の対応
熱中症になってしまった、もしくは疑われる高齢者を発見した時の対応について、ポイントを交えながら紹介します。
1.症状を確認する
まずは以下の症状がないか確認しましょう。
【熱中症が疑われる症状】
- めまい
- 失神
- 筋肉痛
- 筋肉の硬直
- 大量の発汗
- 頭痛
- 不快感
- 吐き気
- 嘔吐
- 倦怠感
- 虚脱感
- 意識障害
- けいれん
- 手足の運動障害
- 高体温
2.呼びかけに応えられるか確認する
次に、呼びかけに応えられるか確認します。
応えられる場合には、涼しい場所へ移動し服をゆるめ体を冷やしてあげましょう。
もし、対応に悩んでしまう場合や、混乱・動揺してしまった場合には、一人で解決しようとせず、他のスタッフ(できれば看護師)に状態を報告し指示を仰ぎましょう。
急変時には、動揺してしまい冷静な対応ができないこともあります。そんな時、第三者に関わってもらうことで気持ちを冷静な状態に切り替えることができるため、頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
こちらからの呼びかけに応えられない場合には、救急車を呼ぶ必要があります。
他のスタッフと連携をとりながら119番通報をしましょう。夜間などで勤務しているスタッフが自身だけの場合には、自身で119番通報を行いましょう。
救急車が到着するまでの間に心肺停止が疑われるような場合は、応急処置を始める必要があります。ここで言う応急処置とは、心肺蘇生法のことです。救急隊がかけつけるまでの間、もしくは意識を取り戻すまで、継続して応急処置を行うようにしてください。
呼びかけへの反応があっても意識がもうろうとしている場合や、反応が鈍い際には無理に水を飲ませないようにしましょう。うまく水分を飲みこめないことが予測されるからです。
可能であれば首、腋の下、太腿のつけ根を集中的に冷やしてあげましょう。(体表の近くにある太い静脈を冷やすと効果的)
3.水分を自力で接種できるか確認する
水分を自力で摂取できる場合には、水分と塩分(塩分の入ったスポーツドリンクや経口補水液、食塩水など)を摂取してもらいましょう。
自力で摂取できないようであれば、医療機関へ受診する必要があります。状態に合わせて救急車を呼ぶ、もしくは最寄りの医療機関へ受診できるように支援しましょう。発見者は医療機関へ付き添い、発見時の状況を伝える必要があります。
4.症状がよくなったか確認する
安静にして十分な休息をとってもらい、症状が回復するのを待ちましょう。症状が良くならない場合には医療機関への受診が必要です。
おわりに | 大切なのは事前の対策
いかがでしたでしょうか。
スタッフによって居室管理やご利用者の体調管理を行っている介護施設においても、熱中症は起こり得ます。
熱中症は症状が重い場合、命に関わることもある病気です。
不測の事態に備えて、事前の対策をしっかりと行っておくことが大切でしょう。
事前の対策で重要なのが、発見した時の対応をマニュアル化し訓練をしておくことです。発見から通報まで一連の流れを記載したマニュアルを作成し、繰り返し訓練を行うことで実践力が身につきます。
また、日頃からご利用者の心身の状態を、体温測定や血圧測定などを通じて把握し、アセスメントにつなげておくことも大切です。アセスメントから熱中症のリスクの高さを判断することで、熱中症を予防できる支援につなげることができます。
たとえば、「この方は日頃から水分をあまり摂取されないので、ゼリーを提供して水分不足を補おう」、「エアコンの使い方がわからない方なので、毎朝の訪問時に介護職員がエアコンを操作しておこう」など、具体的な対策を立てて共有しておくことで、熱中症の予防につながります。
コロナ禍において、酷暑環境におけるマスクの着用方法を柔軟に使い分けるなどの特殊な注意点もありますが、今回の記事で紹介したポイントをおさえ、熱中症予防の参考にしてみてください。さまざまな対策を立てながら、高齢者を熱中症から守りましょう。
【参考資料】
- 日本の年平均気温|国土交通省気象庁
- 報道資料:令和2年 (6月から9月) の熱中症による救急搬送状況|総務省
- 熱中症の予防方法と対処方法|環境省熱中症予防情報サイト
- 熱中症を疑ったときには何をするべきか|環境省
- 災害時の熱中症予防~避難生活・片付け作業時の注意点~|環境省
- 熱中症予防×コロナ感染防止で「新しい生活様式」を健康に!|環境省
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有田 和弘
介護の現場で介護スタッフ・介護支援専門員として10年以上の経験を積む。
現在は小規模多機能型居宅介護施設で介護支援専門員として高齢者の生活支援に携わりながら、介護に関する記事を書くライターとしても活動中。