ヘルスケアDXが目指す未来! 介護現場ICT化のメリット&デメリット
政府はヘルスケアDXを推進しています。介護現場ICT化で「省力化」「効率化」「労働力確保」を目指す取り組みがされています。ICT機器は、どのような効果が得られるのでしょうか?この記事では、介護現場ICT化のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
はじめに
介護業界でもDX化が加速しています。要介護者(入居者)の睡眠・心拍数・呼吸数などの生体データのリアルタイムの収集、介護職員の労働をサポートする機器が続々とリリースされています。
2020年9月には、米国のApple社Apple Watchが「家庭用心電図プログラム」として医療機器と承認されました。普段の生活で得られる要介護者のモニタリングデータをリハビリプログラムや診療に役立てる介護施設も登場しています。
このように、ネットワーク通信を利用した情報共有の介護現場ICT化は、政府も普及に積極的に取り組み始めています。なぜ、取り組む必要があるのでしょうか?本稿では、ヘルスケアDXの未来と介護現場ICT化のメリット・デメリットについて紐解いていきます。
ヘルスケアDXに対する政府の取り組み
政府がヘルスケアDXに積極的に取り組む理由は「省力化」「効率化」「労働力確保」です。ネットワーク通信を活用して、生体データのリアルタイムの収集やオンライン対話を行えば介護業務効率化が図れます。
2020年11月には、厚生労働省で、見守りシステムを導入する介護施設の夜間配置基準の緩和が提案されました。このように、介護業務効率化に伴い、省力化の実現に向けて取り組み始められているのです。
また、2021年には「70歳就業法(改正高年齢雇用安定法)」が制度化されて、70歳まで働ける社会づくりが行われます。この制度体制に対応できるように、介護現場のICT化で業務効率化、省力化の取り組みが行われているのです。
介護現場で進む「ICT化」とは
ICTとは「Information and Communication Technology」の略語で、通信技術を活用したコミュニケーションを意味します。ICTを活用したシステムやサービスが普及することで、新たなイノベーションを生むことが期待されています。ICTは、ITとIoTの類義語があるため、それぞれの違いについて理解を深めておきましょう。
意味 | 活用例 | |
---|---|---|
IT (Information Technology) |
情報技術 | コンピュータ・ソフトウェア・アプリケーション |
ICT (Information and Communication Technology) |
情報通信技術 | メール・チャットツール |
IoT (Internet of Things) |
自動的にモノがインターネットに繋がる技術 | 自動運転・スマート家電 |
介護現場ICT化で実現できること
情報通信技術ICTは、介護現場でどのように活かせるのでしょうか?ここでは、介護現場ICT化で実現できることをご紹介します。
1.見守り
センシングを活用して、要介護者(入居者)の状況を把握すれば業務効率化に繋げられて、介護職員の負担軽減が行えます。センシングを活用した見守りシステムは「日本再興戦略2016」にも盛り込まれており、市場規模は2025年に227億円まで拡大すると予測されています。拡大が予測されている見守りシステムのセンシングの種類を覚えておきましょう
動体 センシング |
赤外線や超音波で入居者の動きを検知します。 対象者の視野に入りにくくプライバシーも保護できます。 |
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バイタル センシング |
要介護者(入居者)の脈拍や心拍数・呼吸・血圧・体温を検知します。 バイタルサインに異常が出た場合には、素早い対応が行えます。 |
環境 センシング |
温度・湿度・照度・気圧をセンサーで計測して、居住環境を把握します。 |
見守りに関する詳細情報は「介護IoTセンサー技術を用いた高齢者見守りシステムの魅力とは」に記載されているため、参考にしてみてください。
2.記録
介護記録業務をICT化する動きも出てきています。介護記録業務の運用を改善すれば、入力時間の短縮や情報探索時間の削減が可能です。また、介護記録業務の標準化の実現にも高い効果を発揮します。介護記録業務をICT化した医療法人青仁会介護老人保健施設は、定時退社率90%を達成しています。
3.健康促進
自治体では、ICTを活用した高齢者の健康促進プログラムが実施され始めています。ウェアラブルデバイスを無償提供して、健康状態や歩行数を可視化。健康増進につながる行動をした場合にポイントが付与されて、地域の商店街の商品券と交換できるというような取り組みが開始されています。
介護現場でも、要介護者(入居者)の健康促進が必要です。ウェアラブルデバイスやセンサシングで取得したデータを活用したリハビリプログラムを実施することで健康促進が実現できます。
4.危険予測
介護施設では、患者の転倒・転落事故が多いです。国の統計調査は行われていませんが、三菱総合研究所の調査結果では、転落・転倒が介護事件件数の割合を大きく占めていると述べられています。高齢者の転倒・転落は、大きな事故に繋がりやすいため注意しなければいけません。
このような問題もICTを活用すれば緩和できます。離床センサーを活用すれば、病院・施設等での転倒・転落予防が行えるのです。入居者の危険予測を徹底化して、介護サービスの品質を高めるために離床センサーを導入する介護施設は増えてきています。
5.医療連携
地方は高齢化が進み、深刻な医師不足によって、満足できる医療サービスが受けられないなどの課題が溢れています。この課題を解決するために、急性期医療と地域包括ケアにおけるICT活用が広がりを見せています。
広島県尾道市では、医療情報共有リンク管理機能ID-Linkを介して、参加施設が情報共有できる仕組みを構築。地域全体を1つの病院化とし、手厚いサービスが受けられるような取り組みが開始されています。このようなICTを活用した医療連携は広がりを見せていくと予測されています。
介護現場ICT化のメリット
介護分野でICT導入が加速していますが、どのような効果が得られるのでしょうか?ここでは、介護現場ICT化のメリットをご紹介します。
介護業務を効率化できる
介護現場ICT化を進めれば、事務作業の軽減が行えます。また、スマートフォンやタブレッドなどのモバイル端末で、スタッフ間の情報共有やコミュニケーションの活発化にも効果を発揮。
また、見守りシステムを導入すれば、居室まで足を運ばなくても、要介護者(入居者)の状況が確認できるため業務効率化が見込めます。
業務連結が円滑になる
介護現場にICTを導入すれば、介護記録の共有が行えます。要介護者(入居者)別のケアの実施状況や担当者状況を把握できれば、トラブル時も速やかに問題を解決することができるでしょう。また、介護業界は離職率が高いですが、引継ぎ業務も抜け落ちなく行えるようになります。
介護サービスの品質を向上できる
介護記録情報を分析すれば、科学的根拠に裏付けされた介護サービスも実現可能です。また、売上や居室稼働率を予測することもできるため、介護施設のマネジメントにも役立ちます。そのため、介護サービスの品質向上を目的としてICT機器を導入する介護施設も増えてきています。
介護現場ICT化のデメリット
介護現場ICT化には、注意点もあります。ここでは、介護現場ICT化のデメリットをご紹介します。
導入コストがかかる
介護現場ICT化を実現するためには、パソコンやスマホなどの端末を購入したり、インターネット環境を整えたりしなければいけません。センサシングやソフトウェアの導入も必要になるため、介護現場ICT化には導入コストが発生します。そのため、導入コストを抑えたい方は介護事業ICT補助金を活用してみましょう。
IT知識が必要になる
ICT機器を導入する場合は、介護職員への教育も必要です。とくに、パソコンやスマホのデバイス端末の操作に慣れていない介護職員には、相当な負荷がかかります。少しでも、介護職員の負荷を減らすためにも、システムのUI設計を比較検討して、IT知識がない介護職員でもスムーズに操作ができるかを確認してみてください。
情報漏洩のリスクがある
入居者情報を電子保存する場合は、情報漏洩に注意しなければいけません。そのため、セキュリティ対策に関する知見があるベンダーに相談をしましょう。また、情報漏洩はサイバー攻撃だけではなく、誤操作などが原因で起きます。そのため、必要に応じて権限付与が行えるか、災害時などの不測事態でもデータ復旧が行えるかも確認しておきましょう。
まとめ
今回は、介護業界でICT化が加速する理由をご紹介しました。さまざまな業界で、デジタルトランスフォーメーション(DX)が推進されています。介護業界でも「省力化」「効率化」「労働力確保」を目的としたICT機器導入が広がり始めています。先進医療として「地域医療連携」にも注目が集まっているため、これを機会にICT機器導入を検討してみてください。
【参考資料】
芦原 花菜
ITを活用した業務効率化に興味を持ち、米国と中国(深圳)へ渡航。日本より優れているIT技術を目前にして、ビジネスに役立つIT情報を日本企業の経営者に届けたい想いが芽生えて、Webライター中心(マーケティング支援や業務効率化支援も行う)に活動。