介護現場では利用者とのコミュニケーションが大切!
実践で使える技法を紹介
はじめに
介護現場において、コミュニケーションは重要です。
なぜなら、利用者(この記事では主に高齢者)とのコミュニケーションを通して良好な関係を構築し、より良い介護に繋げられるからです。
この記事では、介護現場でのコミュニケーションで気を付けたいことを解説するために、次の2点を取り上げます。
- 介護現場におけるコミュニケーションの目的・重要性
- 介護現場で実践できるコミュニケーションスキル
利用者とのコミュニケーションに悩まれている方はぜひ参考にしてみてください。
コミュニケーションの目的は?
介護現場におけるコミュニケーションの目的は、利用者の理解を深め、より良い人間関係を構築することです。
時に私たち介護職員は、コミュニケーションを図ることが目的化してしまい、利用者を知る、信頼関係を作る、というところまで及んでいない場合があるので注意が必要です。
本来のコミュニケーションの目的を見失い、結果として利用者との間に信頼関係を構築できなければ、良い介護は提供できません。
コミュニケーションはあくまでも手段であるということを理解し、目的化しないようにしましょう。
そして、適切なコミュニケーション技法を用いて、利用者との信頼関係を築き、より良い介護に繋げるようにしましょう。
介護現場におけるコミュニケーションの重要性
利用者のなかには病気や障害が理由で、自分の考えや想いを相手に伝えるのが難しい方がいます。場合によっては、相手の言っていることが理解できずにストレスや不安を抱えています。
介護職員は彼らの病気や障害の特徴を理解するだけでなく、その人に合わせたコミュニケーション方法を身につけ実践します。そして、少しでも利用者の抱えるストレスや不安の解消に繋げることが求められます。
つまり、介護職員にとってコミュニケーションとは重要な業務なのです。
利用者とのコミュニケーションの基本
利用者とコミュニケーションを図るうえでは、認知症等の特徴・レベルを理解するとともに、その状況に合わせてコミュニケーション方法を変える必要があります。
以下に例を挙げて注意点を説明します。
認知症の利用者の場合
認知症の症状や、認知機能のレベルは利用者によって異なるため、介護職員は一人ひとりに合った対応を心がけることが重要です。
認知症介護の基本は、否定しないことです。
たとえ、話の内容がわからなかったり、現実離れした内容だとしても決して否定してはいけません。
まずは話をよく聞いて、快・不快のいずれの感情なのか観察しましょう。
不安を口にする利用者の場合
施設に入所する利用者のなかには、帰宅願望のある方や不安を口にする方がいます。
私たち介護職員は、業務の忙しさを理由に「帰れませんよ、ここが家ですよ」や「先生(注:医師)が見てくれたから大丈夫ですよ」と、その場しのぎの対応をしがちです。
利用者が口にする内容だけに着目するのではなく、その背景にある不安や焦りの原因は何か、最近何か変わった出来事がなかったか、彼らの生きにくさはどのようなものなのか、これらを考え、理解する共感的な対応が重要です。
介護現場で実践できるコミュニケーション技術
ここまで述べてきた基本をもとにして、現場で活用できるコミュニケーション技術を3つ紹介します。いずれも現場で実践できる技術なので、是非トライしてみて下さい。
質問の技法
質問の技法として「開かれた質問」と「閉じられた質問」を紹介します。
内容 | 特徴 | 例 | |
---|---|---|---|
開かれた質問 | はい・いいえで答えられない質問 | はい・いいえ以外の利用者の言葉を聞くことができる | 「どこに住んでいますか」 「何のお仕事されていたのですか」 「なぜそのように思うのですか」 「お身体はどうですか」 |
閉じられた質問 | はい・いいえで答えられる質問 | 開かれた質問への回答が困難な時に活用 | 「お元気ですか」 「魚はお好きですか」 「○○を食べますか」 |
まずは、はい・いいえで答えられる「閉じられた質問」から始め、少しずつ「開かれた質問」に移ります。その時の状況に合わせてこれらを使い分け、利用者の気持ち・感情を聞き出すのがポイントです。
具体的な活用シーンを紹介します。
(閉じられた質問)
(開かれた質問)
(開かれた質問)
この際、決して質問攻めにならないように、言い方や順番、雰囲気に注意します。
この技法を活用すれば、利用者の想いや、不安な気持ちの原因を知ることに繋がるでしょう。
共感の技法
介護現場では、利用者が不快な感情を表すことがあります。その際、決して頭ごなしに否定するのではなく、その感情自体に共感する技法です。
利用者の感情を把握し、うまく「共感」することで、気持ちが落ち着く場合があります。
具体的には次のような例です。
良かったら息子さんのこと聞かせてもらえませんか?
共感の技法は言葉だけではなく、語調や表現・表情にも注意が必要です。共感した態度が伝われば、利用者の感情の伴ったお話が聞けるかもしれません。
繰り返しの技法
利用者とコミュニケーションを図るなかで、利用者の言葉を繰り返す技法です。
これを実践することで、利用者は「私の話を聴いてくれている」「話の内容が伝わっている」と感じるでしょう。
具体的な活用シーンを紹介します。
ずっと待っているけどどうしたのかな?
どうしたのでしょうね
この際、オウム返しのように無機質に繰り返すのではなく、利用者の表情を見ながら適切なキーワードを繰り返します。また、語調や表現・表情にも注意が必要です。
「聞き上手」を心がけよう
介護現場で重宝されるのは、話し上手ではなく、聞き上手です。
介護職員のなかには利用者の話を聞かず、自分の話ばかりして「自分にはコミュニケーション能力がある」と過信している人がいます。とても残念なことです。
介護現場で大切なのは、とにかく利用者の話に耳を傾ける、聞き上手の姿勢です。これが真のコミュニケーション能力だといえます。
おわりに
介護現場ではコミュニケーションが重要です。
利用者とのコミュニケーションを図るなかで信頼関係を構築し、それを元に医療・介護職員が一緒になって、より良い介護を提供できるからです。
利用者は自分の悩み・不安を聴いてほしいと思っており、介護職員には、利用者を理解し、言葉の背景にある感情に共感・寄り添うことが求められます。
この記事で取り上げたコミュニケーション技術を活用して、利用者の理解を深め、より良い介護に繋げて下さい。
【参考文献】
- 介護福祉士養成講座編集委員会=編集(2016)『新・介護福祉士養成講座 コミュニケーション技術』第3版 中央法規
- 諏訪茂樹(2010)「対人関係とコミュニケーション」第2版 中央法規
笑和
現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。
福祉人材の教育は約20年のキャリアを持ち、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障全般にも精通している。
大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家資格応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。