子育てと介護が同時に起こったら…
ダブルケアについて考えてみよう!
はじめに
毎日精いっぱい育児をしながら、親や家族の介護をし、心身の健康にも気を配らなければならない「ダブルケア」。
昨今の少子高齢化や女性の社会進出に伴う晩婚化、晩産化のため、働きながら親の介護と子育てを同時進行でやらなければならない世帯が今後も増えることが予想されています。
では、ダブルケア当事者は、どのような問題に直面しているのでしょうか?
何が課題で、必要な支援は何なのでしょうか?
今ダブルケアに直面されている方や、まだ直面していないけれど、近い将来起こり得る状況について考えたい方へ向けて、今回は体験談も交えてお伝えしていきます。
「ダブルケア」ってどういう状態?
ダブルケアとは、子育てと親や家族の介護を同時期に抱えている状態のことを指します。
「ダブルケア」という言葉は、横浜国立大学の相馬直子教授と英国・ブリストル大学の山下順子上級講師が共同研究を進める中で生まれた造語です。
2012年からダブルケア研究に着手、2015年にテレビの特集で紹介されてから、ダブルケアという言葉自体が世の中に広く知られるようになりました。
30代後半から40代の女性が育児や介護の中心的な担い手となるケースが多く、実際にケアをする人を「ケアラー」といい、特に子育てや介護が必要な複数人をケアする人を「ダブルケアラー」といいます。
ダブルケアの社会的背景と概要
ダブルケアが起こる背景にはいくつかの要因があげられます。
- 核家族化、兄弟数の減少や頼れる親戚、近所の人が少ない
- ケアが近居・同居の娘に集中している
- 親の生活習慣病の増加や若年性認知症の問題
- 高齢化・長寿命化と晩婚・晩産化
- 縦割り型の子育て支援策・高齢者介護政策
など
特に、女性の社会進出により、晩婚化や晩産化が進んだことで、子育てと介護を同時期に抱える世帯が増えてきました。
一般的に子育ての期間は、妊娠中から大学生まで。
介護は、様子を気にかけるところから看取りまでの期間を指します。
2018年にソニー生命と相馬教授らが連携したダブルケアの実態調査※1でも、36.6%の人が子育てと介護が重なるダブルケアに直面するという結果が出ています。
内閣府「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査※2」では、ダブルケアに直面した場合の就業への影響について、業務量や労働時間を変えざるを得なくなった人は、男性は約半数であるのに対し、女性では約7割となっています。
ダブルケアに直面する前後の業務量や労働時間の変化
ダブルケアのために
業務量や労働時間を変えざるを得なくなった人の割合
業務量や労働時間を減らした人は、男性で約2割(うち無職になった人が2.6%)であるのに対し、女性では約4割(うち無職になった人が17.5%)となっています。
ダブルケアに直面する前後の業務量や労働時間の変化
ダブルケアのために業務量や労働時間を減らした人の割合
(濃い色は無職になった人)
ダブルケアに直面した際に、男性より女性の方が、今までの働き方を見直さざるを得ない状況に置かれているのが各データからも分かります。
ダブルケアで実際に行われるケアの幅は広く、子どもに対しては、寝かしつけ、食事の支度、保育園などの送迎、学業支援、金銭的な支援など。
親や家族に対しては、安否確認、精神的なケア、身体的なケア、手続き関連、買い物代行などがあげられます。
子育ては、子どもが成人になるまでという一応の期限がありますが、いつ終わるのか分からない介護の問題に直面した場合には長期間にわたってケアが続くことも考えられます。
ダブルケアの問題点とは? | 実体験を交えて
今までの社会構造の中では仕事と子育ての両立、あるいは仕事と介護の両立が問題とされてきました。
しかし、現在さまざまな要因が重なり合って、主にケアに携わる30代から40代の女性に仕事と介護と子育てを同時進行しなければならない状況が生まれています。
ここからは、筆者の実体験を交えつつダブルケアの問題点について考えていきましょう。
① 子供たちの心身への負担
私自身は、第3子を40代で出産したため、ダブルケアについては近い将来わが身にも起こり得る問題だと認識していました。
3年程前、義父が突然脳梗塞になって入院し、ダブルケアの問題についてより身近に考えるようになりました。
幸い義父の状態は安定し、後遺症もほとんど残ることもなく、現在は自宅での生活をおくっています。
当時の状況を振り返ってみると、義父の介助は主たる介護者の義母が行っており、第3子の妊娠中だった私は、時々お見舞いに行き、夫が義母の相談を聞いていました。
もし、義母が入院していた場合を考えてみると、主たる介護者は義父だけではなく、夫や私が担うことになっていたと思います。
義母の入院先へも交代で通い、小中学生の子ども達にも家事や身の回りの世話を手伝ってもらうことになっていたでしょう。
子ども達の自立心を育むという意味では、良い部分もあったかもしれませんが、介護が長期にわたると子ども達にも負担がかかり、義父母だけでなく子どもたちの心身のケアにも配慮が必要になってきていたことでしょう。
このように、ダブルケアは、ダブルケアを行う当事者だけでなく、その家族の心身にも影響を及ぼす可能性があるという問題点を含んでいます。
② 孤立するダブルケアラー
地域の介護の相談拠点に「地域包括支援センター」、子育ての相談拠点に「子育て支援センター」がありますが、「ダブルケア」の認識がないと、相談者自身が「今、介護の問題で困っているのか?保育の問題で困っているのか?」が分からず、最適な支援を受けることができない可能性があります。
また、子育て中の母親同士の会話は、子どもの話が中心です。
子育て支援施設のベテラン職員との会話で親の介護についての話が出ることはあっても、若い世代の母親同士の会話では介護の話はほとんどできないのが現状ではないでしょうか。
この結果、自身がダブルケアに陥っていることに気づけなかったり、相談相手がいないために一人で悩みを抱え込んでしまう恐れがあります。
ケアラーが孤立しないような横断的な支援が必要と言えるでしょう。
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③ ケアプランにもダブルケアラーへの配慮が必要
ケアプランとは、ケアマネジャーによって作成される「要介護認定を受けた方が介護保険を利用した介護サービスを受ける際に必要となる介護の計画書」です。
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介護サービスを利用する場合であれば、ダブルケアに配慮して介護におけるケアプランを立てていかなければ、各家庭のケアラーだけでは立ち行かなくなるケースも考えられます。
「離職せずに仕事と子育て、介護をどう両立させるのか…。」
「ケアラー自身が自分の人生を我慢せずに歩み、自己実現はできるのか…。」
自身の意向や家族の状況を理解し、ケアマネジャーに包み隠さず伝えることも大切ですが、既存の縦割り行政では対応が難しいダブルケアラーを支える新しい視点や仕組みが求められています。
ダブルケアで心がけたい3つのこと
ここからは、実際にダブルケアラーになった場合に心がけておきたい3つのポイントを紹介します。
① ダブルケアに気づけるようになっておく
親や家族が元気なうちに話し合っておくことができればベストですが、介護はある日突然に始まるケースが多く、気がついたらダブルケアの状態だったということも少なくはありません。
ダブルケアがどういうものなのかを理解し、親や家族がすでに高齢である場合は、普段から関心をもって情報収集をしたり、実際にダブルケアになってしまった時のシミュレーションを行っておくと良いでしょう。
② 1人で抱え込まない
ダブルケアが始まると、常に介護と育児と仕事のマルチタスクの状況になります。
優先順位を決めて、自分ではなくてもできることは他者に頼っていいと割り切りましょう。
ケアをする側がストレスをため込んでしまっては、余裕のあるケアができなくなります。
やることとやらないことを決めて、完璧にやろうとしないゆるさを持つことも大切です。
自分のための時間もつくるようにしましょう。
③ 誰に相談するか決める
役割分担や相談先について話し合うことも大切です。
たとえば、遠距離になる場合、親や家族、子ども達のケアは誰が担うのか…。
物理的に難しい場合は、介護サービスや保育サービスを利用することも視野に入れて情報収集をする必要があります。
長期的に継続可能なダブルケアを行う方法は、各家庭の経済的事情や、精神的な状況によって変わってきます。
介護や保育のプロの手を借りることも考えて、ケアされる側だけではなく、ケアラーにとってもベターな方法を選択しましょう。
近年では、ダブルケアカフェ※3も各地にできているので、実際に足を運んでみたり、現在の居住地域で探すのが難しければ、オンライン上で同じ境遇の仲間を作って情報交換するのも心が軽くなる方法のひとつです。
支援を行っている団体への問い合わせも検討してみましょう。
おわりに
昨今の少子高齢化や女性の社会進出に伴う晩婚化、晩産化のため、働きながら親の介護と子育てを同時進行で行う世帯が今後も増えていくことが予想されています。
ダブルケアは、社会構造の変化に伴って、さまざまな要因が絡まり合って生じています。
ケアする側がストレスをため込んでしまっては余裕のあるケアができなくなり、ケアする側とされる側、双方のストレスにもつながります。
ひとりで抱え込まずに周囲のサポートも活用しながら、ケアラー自身のための時間をつくれるように心がけましょう。
株式会社ZIPCAREでは、ダブルケアや遠距離介護のサポートをする在宅向け見守り介護ロボット「 まもる~のONE」をご紹介しております。
プライバシーに配慮した設計のセンサーが、ご利用者の脈拍や呼吸、ベッドでの状況、お部屋の環境、睡眠の質を検知。
脈拍や呼吸の変化やお部屋の温度の上昇など、異変があれば通知でお知らせします。
遠くにお住まいだったり、忙しくてなかなか会いに行くことのできないダブルケアラーの方も、お手持ちのスマートフォンやパソコンから気軽に安否確認ができて安心です。
興味のある方はぜひチェックしてみてください。
参考資料
- ※1 ソニー生命・相馬教授・山下教授連携調査「ダブルケアに関する実態調査2018」
- ※2 内閣府委託調査「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査 平成28年4月(2016)」
- ※3 一般社団法人ダブルケアサポート もっとハッピーケアノート
- ひとりでやらない育児・介護のダブルケア 相馬直子 山下順子共著/ポプラ社
澤 優歌
フリーライター。介護職員・介護福祉士として訪問介護、認知症デイサービス、認知症高齢者グループホームの現場に勤務。
現在は、介護分野を中心にウェブメディアなどで執筆中。